• 浅野
    1. 背景を細密に描いていった結果、アシスタントが、すごく細い線を描けるようになったんです。細すぎて印刷すると、肉眼ではほぼ見えないんですよ。僕の場合、原稿は解像度600で作ってるんですけど、1ドットくらいの線を描けるようになっちゃった。
――すごい(笑)。
  • 浅野
    1. 『おやすみプンプン』(以下『プンプン』)を連載中は、作品の性質上、密度の高い背景をやめられなかった。でも、これ以上細かく描いても解像度的にムリだし、連載終了を機に、この方向を突き詰めるのはやめることにしたんです。
――描き方を変えたのですか。
  • 浅野
    1. もう同じことをしたくないんですよね。だから、今連載している『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』(以下『デデデデ』)は、違う描き方を試しています。「あ、今回うまくいった」とか「今回ちょっと変だな」と、試行錯誤しながら新しい絵柄を作っていきたい。まあ大変ですけどやりがいもあるんで。
――作業としてはどんな変化があったのでしょう。
  • 浅野
    1. 極力トーンを使わず、斜線やカケアミみたいな処理とか、フリーハンドで入れたようなタッチで密度を出しています。『プンプン』の背景はもっとベタが多かったし描き込まれていたんですが、『デデデデ』は以前よりざっくり描いてもらっていて、カケアミとかを入れて白くならないようにしています。
――確かに雰囲気がずい分違います。
  • 浅野
    1. カケアミは直接原稿に描いている部分のほかに、素材として準備してあるものがあります。広い面積のところは素材を使います。
――素材はどういう風に作っているんですか。
  • 浅野
    1. カケアミを手で描いてPCで増やしたものや、定規を使わないガタガタした線を何本もみっしり描いてもらって、それをスキャンしたものとか色々あります。(掲載誌を見ながら)ここは直接描いてるのかな。素材かな……。わかんないな……。
――(笑)線増えましたね。
  • 浅野
    1. そうですね。網点にするのは極力避けてこういうタッチにすることで、密度を出すというか。『プンプン』の頃よりも背景の描き込み自体は減らしています。その代わりこういうタッチを入れることで、全体の密度と黒っぽさというか、あんまり白くならないように調整しているつもりなんです。
――PCを使っているようには見えない画風です。
  • 浅野
    1. 以前は僕もデジタル作家という風に見られていて、自分もそのつもりだったんですけど、最近は皆がPCで描くようになって、特殊技能というよりはまんが家の基本スキルみたいになっちゃった。皆がやっていないタッチを目指したいから、見るからに手描きっぽいというか、こういう朴訥な絵柄の方向に行くしかないんじゃないかなと思ったんです。
――(『デデデデ』執筆中の原稿を見せてもらう)キャラクターが魅力的です。人物を描くコツはありますか。
  • 浅野
    1. 以前モブシーンを、写真をトレスして描いたことがあって、それからどんなポーズでも描けるようになったんです。トレスすると、「人間はこんなところが曲がってるのか」「座ってるときはこうなってるのか」といった発見がありました。練習としては最適だと思いますよ。
――原稿はかなりアナログで描き込まれています。デジタルでラクになった部分はあるんでしょうか。
  • 浅野
    1. PCで処理するのは自分でやるので、手描きの部分を増やせばアシスタントに任せられるところが多くなるんです。「斜線入れといて」とか。だからなるべく自分に負担がないようにと考えた結果、なぜかアナログが増えていくっていう感じなんです。
――逆に(笑)。Photoshopのほかに使っているソフトはありますか。
  • 浅野
    1. Photoshopしか使わないですね。使うのは僕だけです。アシスタントに使い方を教えて、仕上げを手伝ってもらってもいいんですが、Photoshopを使うまんが家は少ないから、別のアシスタント先では使えないし、なんか悪いなと……。それに最終的な背景の合成とかは、ホントに感覚的なものなので頼みづらい。自分でやったほうが早いんです。
――PCの操作はペンタブレットですか?
  • 浅野
    1. 普通の板タブなので、ペン入れには使ってません。この間ようやく液晶タブレットを買ってちょっと試したんですけど……描けなくはなさそうですが、絵柄が変わりそうで。
――なるほど。
  • 浅野
    1. 全く別作品で、「これは液晶タブレットで描く!」って決めたら移行できるかもしれませんが、今は使わないでしょうね。ただ、一人でやるんだったら、液晶タブレットにすると思います。アナログは作画の過程で紙が大量に出るんで邪魔なんですよ。消しゴムの消しカスとかも溜まっていくし。
――紙を使わなくていいのは大きいかもしれません。
  • 浅野
    1. でも、僕の絵ってガサガサなんですよ。それをデジタルで再現するんだったら、手で描いた方が速いかなって思ったりもします。
――ペン入れはつけペンですか
  • 浅野
    1. 以前はほとんどGペンで描いていたんですけど、『デデデデ』は結構ごちゃ混ぜなんですよね。筆ペンの細い方で描いたり、ミリペンだったり。雑誌になったときや、単行本になったときの見え方、あと、タブレットで見たときの見え方って結構バラバラで、どうしたら一番よく仕上がるのかを試しながらやってます。
  • 浅野
    1. 僕の周りのまんが家さんがよく話題にするのが「3Dモデルをどう使うか」なんです。3Dモデルだけでまんがが作れないか試している方もいて、みなさん色々模索しています。でも、向いてない作風だと使いづらい面があるんです。たとえば日常的な話を描こうとしたとき、住宅地の3Dモデルを用意するのってめちゃくちゃ大変なんですよ。じゃあ写真でいいかなと思う。
――確かに。
  • 浅野
    1. 3Dモデルを使ってまんがを作るには、それに合った作風が必要だし、作業量が膨大になるのでチームでやらないと難しい。僕は、できれば一人でやりたいタイプなので、その方向には行けないんです。「だったら俺はアナログで行くよ!」っていう感じになってますね。アナログを無闇にありがたがる風潮もイヤなんですが……。
――メカに3Dモデルを使うまんが家は増えましたね。
  • 浅野
    1. 奥浩哉さんや太田垣康男さんはすごく上手に使ってますよね。メカといえば『デデデデ』にUFOが出てくるんですけど、これは見本を自分で作りました。ブロックトイで(笑)。
――(笑)。あの灰皿みたいな。
  • 浅野
    1. 上のほうが灰皿なんですけど(笑)。UFOの下の部分はブロックトイでざっくり作ったやつをもとにしています。細部はアシスタントに描いてもらって作りました。デジタルなんだけどアナログな作業をしていますね。
――なるほど。
  • 浅野
    1. 模様は工場で撮影した機械の写真をコラージュして、それをPhotoshopで白黒に加工し、さらにそこに手描きで。
――手描きが多いですね。
  • 浅野
    1. そうなんですよね。必ず手描きがどこかに入るっていう感じなんですよね。
新しい画風を模索する
連載中の『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』の原稿。トーンを使わずカケアミや斜線などで処理されている。『おやすみプンプン』の頃とは描き方を変えているという。ほとんどトーンを使わないのも特徴だ。
カケアミ素材
手描きのものをスキャンしたカケアミの素材。あとで原稿を見ても、どこが手描きでどこが素材かわからないことも多いとか。
不思議な形はブロックで
ブロックトイで見本を作って描かれたUFO。不思議なデザインで未知の物体を表現した。
浅野いにお(あさのいにお)
1980年 茨城県生まれ。

1998年、「ビッグコミックスピリッツ増刊号 MANPUKU!」にて『菊地それはちょっとやりすぎだ!!』でデビュー。
代表作に『おやすみプンプン』『ソラニン』『虹ヶ原ホログラフ』『うみべの女の子』等。
2014年より「ビッグコミックスピリッツ」にて『デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション』連載中。