――作品を見ていると背景にはかなりこだわりがあるように感じます。
  • 浅野
    1. 人物よりも背景には時間をかけています。最初の単行本が出たときに、「背景がヘタクソ」ってネットに書かれたのがトラウマになっていて……(笑)。
――(笑)。
  • 浅野
    1. 自覚はあったけど、言われるとすごい傷つくんですよ(笑)。じゃあうまくなったらこいつ文句いわねぇんだなと思って。限界までうまくなってやろうと思って。色々試して、単行本の最初の4冊ぐらいまでは一人でやっていたんです。
――はい。
  • 浅野
    1. でも、やっぱりいま読み返すと手を抜いてるっていうか、時間の都合もあるので、あまりできてませんね。それ以降はアシスタントを入れています。今の作風はアシスタントがいないと連載は無理でしょうね。
――たしかに絵の密度がすごいですよね。どんな風に描いているのでしょうか。
  • 浅野
    1. 背景以外は僕が全部やっています。アシスタントには写真をベースに背景を描いてもらいます。しばらくは1人の方にお願いしていたんですが、その人がやめると、まるまる背景を描く人が変わっちゃう。だから常に複数のアシスタントがいないとまずいなと思って、3人体制にしています。 
――背景以外というと、仕上げも先生がするんですか。
  • 浅野
    1. はい。実を言うと3人は多いんです。でも仕事は渡さないといけないので、手が空いた人にはストック用の背景を描いてもらっていました。あと、時間をつぶしてもらうために、描くのが面倒くさそうな背景をまわしちゃっていたんです。するとアシスタントがどんどん細かい絵を描けるようになって、結果的に背景の密度が上がってしまい、僕1人じゃできないくらい高密度になっちゃった。
――(実際にストック用の背景を見せてもらう)すごく細かく描き込まれています。背景作成の工程はどんな感じなのでしょうか。
  • 浅野
    1. まずは僕が写真を加工してベタになる部分を作り、残りの部分はアシスタントが描き込んでいきます。
――写真の加工で気をつけることはありますか。
  • 浅野
    1. 写真を撮る時間帯にも注意が必要です。影が落ちたところが真っ黒になる場合があるんです。天気は曇りの日がベストですね。
――輪郭線になるようなところはすべて手描きですね。
  • 浅野
    1. 写真の輪郭を抽出する機能もあるんですが、あれは線が太かったりガタガタしていたりしてきれいじゃないんです。だから大部分は描き込んでもらいます。写真に無いものを足したりもします。
――描かれたものを見ると大変な作業だとわかりますね。
  • 浅野
    1. でも背景を写実的にするほど「どうせ写真だろ」って言われるので、なんか不毛なことをやっているなあと……。
――(笑)
  • 浅野
    1. 写真をもとに背景を作るとなると、撮れる場所って決まってるじゃないですか。 そうなるともう、いかにすごい所から写真を撮るかっていう競争になっちゃうんですよ。
――なるほど。
  • 浅野
    1. この間『アイアムアヒーロー』の花沢健吾さんがヘリコプターから撮ったって言ってて。「花沢さんがそれやっちゃうと、俺出来ないじゃん」って思って(笑)。僕がそれを後からやってもね、出来上がりがほぼ同じになっちゃう。僕と花沢さんってほぼ同じやり方してるんで。
――同じことはできない。
  • 浅野
    1. じゃあ「俺はもう寄ってく」と思って。例えば地面や落ち葉を接写したり。以前読み切りを描いたんですけど、それは小人の話で。接写した小さいものの中に小さい生き物がいるみたいな漫画を描いたんですよ。花沢さんがマクロに行くんだったら、僕はミクロに行くしかないと。ほかの人がやっちゃったから自分はこっちに行くしかないっていう、割と消去法で動いてるところもあるんですけど。
写真からベタ部分を抽出
写真を二階調化して白黒にし、ベタになるところだけを残す作業。「必ずどこかが黒くつぶれてしまうので、使えそうなところだけをトリミングして残し、また処理し直します。そうやって何度か同じ作業を繰り返して作ります」と浅野先生自ら実演してくれた。加工された写真は、上から手描きで線を入れて背景画になる。
写真から線画を起こし仕上げる
写真を使って描いた背景。拡大するとペンで入れたタッチが見える。薄いグレーで3~5段階濃度を変えて着色するとまんがらしくなるという。